パリ大聖堂の再建に向けて

 

4月15日夜(日本時間16日未明)にパリのノートルダム大聖堂で大規模な火災が発生し、屋根や尖塔が燃え落ちるなど甚大な被害が出ました。当初の火災の様子の報道の後、今後の再建についての記事も目にするようになりました。

4月18日の日経電子版、4月24日の朝日電子版では、「内部に鉄骨などの素材を使う」(日経)、「チタンなどの軽い素材なら再建が早く進む」(朝日)などとあって、そうした新素材、新技術の導入の方向に進むかもしれない印象を持ちました。私は、大聖堂の真正性を確保するためにも、できるかぎり元の形に忠実な再建を心がけてほしいと思っており、現代技術による再建にはあまり賛成ではないため、心配しています。
一方、4月30日の毎日電子版では、「文化財専門家や建築家、美術史家らが連名で、拙速な修復に走らないよう訴えた」と報道されました。私はこの記事にあるように、「修復方法の検討を思慮深く、時間をかけて進める」ことに賛成です。

以下、今ふれた記事へのリンクを張り、内容の一部を紹介し、私の簡単なコメントを掲げます。

4月18日日本経済新聞電子版「ノートルダム寺院、再建の道筋は 石材被害、難度を左右」
「焼失した屋根の一部には建築当初の木材が使われていた。東京文化財研究所の金井健・保存計画研究室長は『全く同じ素材や工法で復旧するのは、時間と金がかかり過ぎて現実的ではない』としている。
歴史的建造物の保存修復に詳しい工学院大の後藤治教授によると、欧州では1972年に仏ナント市の大聖堂、84年に英ヨーク市の大聖堂で火災が起き、小屋組が焼失。いずれも再建の際、外観は忠実に再現されたが、内部には鉄骨などの素材が使われたという。後藤教授は『今回も同様になるだろう』とみている。(・・・)
今後、再建のスピードだけでなく高いレベルでの復元も求められることになりそうだ。」

↑「高いレベルでの復元」を実現するために、「内部に鉄骨などの素材を使う」ことはできれば避けてもらいたいものです。鉄骨が使われた例の内、「英ヨーク市の大聖堂」は知りませんが、「仏ナント市の大聖堂」は1434年の建造開始、1891年の完成です。ナントの大聖堂は、ナント市には失礼になりますが、パリのノートルダム大聖堂とくらべると、やはり格式やゴシック建築としての真正性で一歩も二歩も譲ります。パリの大聖堂では、できるかぎり元の形に忠実な再建を心がけてほしいものです。

4月24日朝日新聞電子版「大聖堂、どう復元すべき? デザインに素材、仏で議論に」(有料記事)
「パリジャン紙は18日の特集で『あまりに長い歴史を持った建物に変更を加えるべきではない』『大聖堂は修復を繰り返すもので、それも歴史の一部だ』とする専門家の両論を紹介した。
屋根組みに再び1300本分の木材を使えば、材料の調達や乾燥に時間がかかる一方、チタンなどの軽い素材なら再建が早く進むメリットがあるという。
再建の先例の一つが、(・・・)ランスのノートルダム大聖堂だ。1914年、第1次大戦時のドイツ軍の砲撃で木造の屋根が全焼し、ステンドグラスは全て破損、鐘楼の一部が崩壊した。(・・・)
再建時、屋根裏部分は木材に代わりコンクリートを使った。(・・・)参観者からは見えないところで、耐火性を重視した。当時最先端の技術を採り入れ、焼失前の屋根より軽い構造になった。
大聖堂内部の主要部は忠実な再現を心がけた。(・・・)」

↑ 上述のとおり、私は木材を使ってもとの形に復元してほしいと感じており、どうなるか推移を注視していきたいと思います。ランス大聖堂は格式、建築年代、規模などパリ大聖堂と同等の価値を持ちますが、前例があるからとただそれに従うのではなく、再建方針についてしっかり議論をしてもらいたいものです。なお、朝日新聞は火災当日の4月16日にも、修復についての記事「『フランス革命に次ぐ衝撃、修復議論に十年』大聖堂火災」(有料)を配信しています。

4月30日毎日新聞電子版「ノートルダム寺院『拙速な修復やめて』 仏大統領に識者ら1170人が連名で訴え」(有料記事)
「マクロン大統領に対し、国内外の文化財専門家や建築家、美術史家ら約1170人が連名で、拙速な修復に走らないよう訴えた寄稿を、29日付のフランス紙フィガロが掲載した。
日本から大同大(名古屋市南区)の佐藤達生名誉教授(建築史)らも名を連ねた。(・・・)
修復に際し、効率性を追求する一方で、建物の状況分析や修復方法の検討を思慮深く、時間をかけて進めるよう主張。フランスが数多く養成してきた専門家の意見にしっかり耳を傾けるよう求めた。」

↑ 上述のとおり、私はこの記事に書かれているように、「修復方法の検討を思慮深く、時間をかけて進める」ことに賛成です。

 

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