9月: 「トゥール Tours 」公開

 

2019年9月の本サイトの動きは以下のようです。

・2019年2月に撮った写真を基に、トゥールの町の紹介記事を公開しました。 ただし、現在、文章の作成に充分な時間を取れません。まずは写真を中心に公開し、文章は暇を見て補足していくつもりです。(9月12日)

 

カテゴリー: お知らせ(サイト関係), フランス・フランス語圏

名古屋城天守木造復元の現状(中日新聞より)

 

中日新聞名古屋市民版の2019年8月20日から24日にかけてのインタビュー記事
教えて 名古屋城
を紹介します(リンク先は5回シリーズの扉ページです)。

この記事の初回の前文にもあるように、名古屋城天守の木造復元事業は、名古屋市が文化庁に申請した現天守の解体許可が予定通りに下りず停滞しています。国の特別史跡である石垣の保全のため、法令に則って市が設置した「石垣部会」から、天守解体の承認を得られていないためです。中日新聞のこの記事は時宜にかなったものと思います。(1)と(5)の記事の発言者は、名古屋市および河村市長への提言をしており、事業の進捗のために重要と思います。

以下、各インタビューへのリンクと、私が見たそれぞれのポイントです。

(1、前文)
名古屋城の天守木造復元事業は、名古屋市が文化庁に申請した現天守の解体許可が予定通りに下りず、停滞気味だ。

(1)天守解体 元文化庁調査官、服部英雄さん
「停滞した事業を前に進めるには、市が文化庁や、対立する関係者に事業の意義や市の立場、調査の結果を説明して理解を求めていくしかありません。」

(2)石垣修復 最後の「穴太衆(あのうしゅう)」、粟田純司さん
「名古屋城は戦後に現天守を建設した際、穴蔵と呼ばれる石垣の頂上部を積み直しています。今後、現天守を解体すれば先人の積み方に復元でき、石垣の価値を高めることができます。」

(3)木材の保管 宮大工、魚津源二さん
「もし、文化庁から天守復元の許可が下りず、五年、七年と事業が遅れても、お城のためにはむしろベター。保管している材木が乾燥して最高の状態になっていきます。」

(4)観光活用 気象予報士、キャスター 久保井朝美さん
「名古屋城をはじめコンクリート製天守は正直、どこか味気なく感じます。同じ復元天守でも掛川城は木造であることがブランドになっています。・・・年月とともに味が出てくるのが木造の魅力。天守木造化でその変化を目撃できるのは楽しみです。」

(5)2022年末の工期 立命館大客員教授、古阪秀三さん
「事業が停滞しているために雑音が次々と聞こえてくる現在の閉塞(へいそく)状況を打開するためには市長が勇気を持って、今何が起きていて、どうして苦しんでいるか、腹をくくってもっと話すべきだと思います。」

 

名古屋天守の木造復元についての私の考えは、2019年3月31日の本欄「名古屋城天守閣の木造復元2」をご覧下さい。ただし、木造復元計画の現状は、木造復元に着手する前の段階で停滞しています。

 

 

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8月: 「あいちトリエンナーレ・表現の不自由展」が抗議・脅迫により中止

 

2019年8月はこのサイトの固定ページには特に変化はありません。

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「平和の少女像」などを展示した国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」内の企画展『表現の不自由展・その後』(名古屋市、愛知県芸術文化センターで開催)が、開催から3日間で中止に追い込まれました。特に《平和の少女像》(いわゆる慰安婦像)の展示が問題視され、「ガソリン携行缶を持ってお邪魔する」と書かれた脅迫文などが届き、安全面に気を配っての中止決定だといいます。その前段では、一部政治家が《平和の少女像》の撤去を求めるということもありました。

私は名古屋地区に在住しており、この展示も開催2日目に見ることができました。展示されている作品は、過去の展覧会などに展示を認められなかったり、撤去されたりした問題作ばかりで、それらをまとめて見られる、ある意味とても贅沢な展覧会でした。見る者に考えさせる好企画だったと思います。

私は、展覧会の展示内容は企画者(今回は津田大介芸術監督)が自由に設定すべきであり、その表現の自由は守られるべきだと思います。ただし、展示の意図を大方に理解してもらえるようにする努力も必要だと思います。この観点から、展示内容と、中止後に論じられたことを振り返っておきます。

(1)「表現の不自由展」の内容については、こちらのHUFFPOSTの記事が参考になります。

(2)さて、展示の中止を受け、各種団体が声明を発表し、また、さまざまな議論が起こりました。
ここでは、朝日新聞に載った、黒瀬陽平氏、宮台真司氏、唐沢貴洋氏による考察(有料記事)を取り上げておきます。聞き書きなので文責は記者にあると思われます。3氏の内、2氏が展示に干渉した政治家への批判を明言し、2氏が展示の中止への批判を明言しています。有料記事でもあり、私が注目する部分を抜き出しておきます。

黒瀬氏
「「話が通じない」状態の前で、芸術は無力です。展覧会をつくるにあたって、そのような状況に陥ることは絶対に避けなければならない。・・・観客が作品を通して問題の内部に入り込み、感じ、考えるための仕掛けが必要です。・・・見る側の想像力をふくらませ、もともとあったはずの分断を乗り越えていける「動線」が引かれていないといけない。」

その仕掛け、動線は十分ではなかったと言わざるをえません。

「観客と作品双方の多様性を守りつつ、「話が通じる」空間としての芸術祭をいかに設計してゆくか、現実的な議論をするべきでしょう。」

宮台氏
「アートとパブリックのねじれです。・・・矛盾する二側面を両立させるには工夫が必要ですが、今回はなかった。「表現の不自由展」なのに肝心のエロ・グロ表現が入らず、「看板に偽りあり」です。特定の政治的価値に沿う作品ばかり。政治的価値になびけば、社会の日常に媚(こ)びたパブリックアートに堕する。政治的文脈など流転します。」

ちょっと分かりにくいですが、(どのような政治的立場にせよ)政治的価値になびけば、パブリックアートの領域に入ってしまう、ということでしょうか。もともとパブリックアートの構図であるトリエンナーレだったのですからなおさらでしょう。

「特定の政治的価値に沿う作品ばかり」になったのは、過去の展覧会で秩序を維持したい側から排除された作品を集めた結果、現状批判的な作品ばかりになったのですが、それは、企画側に作品を集める際の積極的なヴィジョンがなかった、工夫がなかったということでもあります。

このように、黒瀬氏、宮台氏ともに、企画側の工夫のなさ、仕掛けのなさを指摘していて、私も同感です。また、中止圧力がかかったときにどうするか(宮台氏のいう 「対処法」)のシミュレーションも必須であったでしょうが、不足していたように思われます。

(3)その後、芸術監督津田大介氏が長文の「お詫びと報告」を発表するなどした後、

愛知県が設置した「あいちトリエンナーレのあり方検証委員会」の第1回会合が開催されました。
以下は、この開催を報じた朝日新聞の記事からの抜粋です。

「一般の人が準備なく見に来ると、プロパガンダと感じてしまうのも否定できない」。行政改革が専門で検証委副座長の上山信一・慶大教授は、企画展の準備や見せ方に問題があったとの見方を示した。
(・・・)上山氏は「絶対的な正解がないテーマだと予告し、『表現の自由』を学んだうえで展示を見せないと、企画展の目的は達成できないのではないか」と述べた。

こうした話しぶりから、制限、制約を設けた上での展示といった後ろ向きの議論に向かうことを危惧する向きがあることも理解します。しかし、抗議・脅迫の土壌となっている大きな状況はすぐに転換できるものでもありません。そうしたなかで、私としては、「話が通じる空間としての芸術祭をいかに設計してゆくかの現実的な議論」(黒瀬氏)が必要であるとの考えを支持しますし、検証委員会の議論もそうした文脈の一部と考えたいと思います。

なお、「話が通じる空間」は、あくまでも、《平和の少女像》(いわゆる慰安婦像)、《遠近を抱えて》(昭和天皇の写真が燃やされる映像を含む作品)という具体的な二作品の展示も可能とするものでなくてはならないと考えます。

検証委員会の議論だけでなく、芸術の価値を理解させるような芸術展示のあり方の議論が活発化することを期待しますし、注目していきたいと思います。

 

 

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7月: 欧州の熱波

 

2019年7月はこのサイトの固定ページには特に変化はありません。

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今夏のヨーロッパは大変な熱波に襲われたとのことです。今夏のヨーロッパの気候にかかわる若干のリンクを張って記録に残しておこうと思います。(リンク先の記事は今後削除されることもありえます。)

パリで史上最高の42.6度観測 欧州の熱波ピーク迎える
2019年7月26日 3:26
発信地:パリ/フランス [ フランス, ヨーロッパ ]
https://www.afpbb.com/articles/-/3236958

欧州熱波、独など3か国で最高気温を更新
2019年7月25日 7:34
発信地:パリ/フランス [ フランス, ドイツ, ベルギー, ヨーロッパ ]
https://www.afpbb.com/articles/-/3236783

特にパリの様子はこちら
2019年7月26日
パリ熱波で42.6度に 70年ぶり最高気温の記録を更新
https://tokuhain.arukikata.co.jp/paris/2019/07/post_583.html

当ホームページはフランスを中心とする文化・思想にかかわるもので、ニュースの紹介もフランスやヨーロッパ中心になります。しかし、欧州を熱波が襲ったということは、その熱波の源であろう北アフリカ地方はさらなる猛暑に襲われていたのではないでしょうか。そうした地域につねに思いを至らせたいものです。

一般論としても、私たちが見聞きするニュースは、日本の私たちに関係が深い地域のものが多くなってしまいがちです。自分たちの入手する情報が偏りがちであることはつねに自覚していたいものです。

 

 

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6月: ディドロ『生理学要綱』新校訂版

 

2019年6月はこのサイトの固定ページには特に変化はありません。

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今回の話題は、フランスあるいはヨーロッパの18世紀の思想に関心を持っている人向けになります。

ディドロは百科全書の編者として有名ですが、そのディドロが完成に至らずに遺した『生理学要綱』という重要著作があります。私の友人で、同じ名古屋地区在住の寺田元一氏(名古屋市立大学名誉教授)が、最近、この著作の校訂版をフランスの出版社から出版しました。

全体で600ページほどの本で、『生理学要綱』のテクストに関わる部分が200ページほど、寺田氏の「解説」が100ページ、典拠情報関係が200ページと、大変充実した内容になっています。
編集に当たっての寺田氏の立場は、この著作を生理学や自然誌の歴史の全体的文脈と、晩年のディドロの思想全体との脈絡で位置づけようとするもの、とのことです。本文の校訂も、典拠に当たり、この著作の種々のテクストも参照して、従来の校訂版を超えるレベルで行われています。
価格の40ユーロは600ページという分量からすれば、むしろ安価でしょう。電子版もあり、こちらはさらに安価な29.9ユーロです。

日本人が大部のフランス語の古典全体の校訂版を出すことはほとんどなかったはずで画期的なことと思います。書き下ろされたフランス語の文章は十分な校閲を経ており、満を持しての出版と思います。

入手方法:
出版社のサイト

アマゾン・フランス

電子版入手先への直接リンク

 

(追記)
寺田氏はこの校訂版の出版に当たって、自身の友人でディドロ研究者であるフランソワ・ペパン François Pépin 氏の協力を得ているとのことです。寺田氏とペパン氏を含む日仏のディドロおよび百科全書の研究者14名(日本9名、フランス5名)の分担執筆による、
逸見龍生・小関武史編『百科全書の時空 典拠・生成・転移』、法政大学出版局、本体7,000円
が一年ほど前になりますが、出版されています。力作の論考がそろった充実した一冊であると思います。こちらも手にとってごらんになることをお勧めします。

『百科全書の時空』の出版社による紹介のページはこちらです。

 

↓以下の画像はクリックすると拡大できます。

 

 

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5月: 「オルレアン Orléans」公開

 

2019年5月の本サイトの動きは以下のようです。

・2019年2月に撮った写真を基に、オルレアンの町の紹介記事を公開しました。 ただし、現在、文章の作成に充分な時間を取れません。まずは写真を中心に公開し、文章は暇を見て補足していくつもりです。(5月7日)

 

 

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パリ大聖堂の再建に向けて

 

4月15日夜(日本時間16日未明)にパリのノートルダム大聖堂で大規模な火災が発生し、屋根や尖塔が燃え落ちるなど甚大な被害が出ました。当初の火災の様子の報道の後、今後の再建についての記事も目にするようになりました。

4月18日の日経電子版、4月24日の朝日電子版では、「内部に鉄骨などの素材を使う」(日経)、「チタンなどの軽い素材なら再建が早く進む」(朝日)などとあって、そうした新素材、新技術の導入の方向に進むかもしれない印象を持ちました。私は、大聖堂の真正性を確保するためにも、できるかぎり元の形に忠実な再建を心がけてほしいと思っており、現代技術による再建にはあまり賛成ではないため、心配しています。
一方、4月30日の毎日電子版では、「文化財専門家や建築家、美術史家らが連名で、拙速な修復に走らないよう訴えた」と報道されました。私はこの記事にあるように、「修復方法の検討を思慮深く、時間をかけて進める」ことに賛成です。

以下、今ふれた記事へのリンクを張り、内容の一部を紹介し、私の簡単なコメントを掲げます。

4月18日日本経済新聞電子版「ノートルダム寺院、再建の道筋は 石材被害、難度を左右」
「焼失した屋根の一部には建築当初の木材が使われていた。東京文化財研究所の金井健・保存計画研究室長は『全く同じ素材や工法で復旧するのは、時間と金がかかり過ぎて現実的ではない』としている。
歴史的建造物の保存修復に詳しい工学院大の後藤治教授によると、欧州では1972年に仏ナント市の大聖堂、84年に英ヨーク市の大聖堂で火災が起き、小屋組が焼失。いずれも再建の際、外観は忠実に再現されたが、内部には鉄骨などの素材が使われたという。後藤教授は『今回も同様になるだろう』とみている。(・・・)
今後、再建のスピードだけでなく高いレベルでの復元も求められることになりそうだ。」

↑「高いレベルでの復元」を実現するために、「内部に鉄骨などの素材を使う」ことはできれば避けてもらいたいものです。鉄骨が使われた例の内、「英ヨーク市の大聖堂」は知りませんが、「仏ナント市の大聖堂」は1434年の建造開始、1891年の完成です。ナントの大聖堂は、ナント市には失礼になりますが、パリのノートルダム大聖堂とくらべると、やはり格式やゴシック建築としての真正性で一歩も二歩も譲ります。パリの大聖堂では、できるかぎり元の形に忠実な再建を心がけてほしいものです。

4月24日朝日新聞電子版「大聖堂、どう復元すべき? デザインに素材、仏で議論に」(有料記事)
「パリジャン紙は18日の特集で『あまりに長い歴史を持った建物に変更を加えるべきではない』『大聖堂は修復を繰り返すもので、それも歴史の一部だ』とする専門家の両論を紹介した。
屋根組みに再び1300本分の木材を使えば、材料の調達や乾燥に時間がかかる一方、チタンなどの軽い素材なら再建が早く進むメリットがあるという。
再建の先例の一つが、(・・・)ランスのノートルダム大聖堂だ。1914年、第1次大戦時のドイツ軍の砲撃で木造の屋根が全焼し、ステンドグラスは全て破損、鐘楼の一部が崩壊した。(・・・)
再建時、屋根裏部分は木材に代わりコンクリートを使った。(・・・)参観者からは見えないところで、耐火性を重視した。当時最先端の技術を採り入れ、焼失前の屋根より軽い構造になった。
大聖堂内部の主要部は忠実な再現を心がけた。(・・・)」

↑ 上述のとおり、私は木材を使ってもとの形に復元してほしいと感じており、どうなるか推移を注視していきたいと思います。ランス大聖堂は格式、建築年代、規模などパリ大聖堂と同等の価値を持ちますが、前例があるからとただそれに従うのではなく、再建方針についてしっかり議論をしてもらいたいものです。なお、朝日新聞は火災当日の4月16日にも、修復についての記事「『フランス革命に次ぐ衝撃、修復議論に十年』大聖堂火災」(有料)を配信しています。

4月30日毎日新聞電子版「ノートルダム寺院『拙速な修復やめて』 仏大統領に識者ら1170人が連名で訴え」(有料記事)
「マクロン大統領に対し、国内外の文化財専門家や建築家、美術史家ら約1170人が連名で、拙速な修復に走らないよう訴えた寄稿を、29日付のフランス紙フィガロが掲載した。
日本から大同大(名古屋市南区)の佐藤達生名誉教授(建築史)らも名を連ねた。(・・・)
修復に際し、効率性を追求する一方で、建物の状況分析や修復方法の検討を思慮深く、時間をかけて進めるよう主張。フランスが数多く養成してきた専門家の意見にしっかり耳を傾けるよう求めた。」

↑ 上述のとおり、私はこの記事に書かれているように、「修復方法の検討を思慮深く、時間をかけて進める」ことに賛成です。

 

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4月: 新論文等へのリンクを追加

 

2019年4月の本サイトの動きは以下のようです。

・本サイトトップページの「研究」欄に、新たに書き下ろした論文「フーコー『言葉と物』におけるコンディヤック」のPDFファイルへのリンクを張りました。このファイルは名古屋大学リポジトリに収められて公開されているものです。(4月10日)

・本サイトのトップページの「研究」欄に、哲学国際コレージュ(パリ)のセミナー「百科全書と解釈学」(クレール・フォヴェルグ氏主宰)で私が行った発表「コンディヤックと解釈学の問題」のフランス語によるレジュメ(要約)を掲載しました。(4月10日)

 

 

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3月: 名古屋城天守閣の木造復元 2

 

2019年3月はこのサイトの固定ページには特に変化はありません。

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およそ2年前の2017年4月21日、私は本欄で「名古屋城天守閣の木造復元」という文章を書きました。以下の文章は、あらためて名古屋天守の木造復元についての私の考えを記したものです。

名古屋城天守は木造による復元が計画されていますが、そこにエレベーター (EV) を設置すべきという要望が出て、現在議論が続いています。私はバリアフリー化に賛成ですが、城の本来的な構造そのものに大きな影響を与えるEVではなく、史実に忠実に復元した城に追加する形での方策を進めてほしいと思っています。近世のものである天守の骨格部分に現代の技術の産物であるエレベーターが割り込むような、私に言わせれば異形な城を作ってほしくはありません。

ヨーロッパなどで歴史的建造物にEVが設置されている例が持ち出されることもありますが、設置のされ方が厳密に検証されずに持ち出されることが多いようです。日本の城の「天守」に相当するものは、ヨーロッパでは Keep あるいは Donjon と呼ばれるものです。厳密には、日本の「天守」より時代的に先行しているのですが、その点については今は問題としません。この Keep (Donjon) が史跡として整備される中で、エレベーターが設置された例があるか、ネットによってですがいろいろ調べてみましたが、設置例は見つかりませんでした。断言はできませんが、Keep (Donjon) へのEVの設置例はない可能性が高いです。

ヨーロッパでは後に、言葉は「城 castle, château 」のままでも、実体としては「城館」の時代に入ります。対象をこうした城館、さらには18世紀あたりまでの歴史的建造物一般へと広げても、ヨーロッパには極めて多数の歴史的建造物が残されていますが、その中で、EVが設置されたものはごくわずかです。また、設置されている場合も、名古屋城天守よりはるかに巨大・広大か、低層の建造物です。ローマのコロッセオは前の条件、ヴェルサイユ宮殿は両方の条件に合致します。どの場合も、建造物全体に対してEVが与える影響は相対的に軽微です。名古屋城天守の木造化を推進し、EVの設置には否定的な名古屋市の河村たかし市長も、「中国の万里の長城にはEVがあるが、延々と続く長城の一部なので本物性を壊すものではない」(2018年8月11日付毎日新聞)と同じことを指摘しています。

名古屋城天守は、日本では特段の価値があるために復元しようとしています。その天守の中心部分を低層から高層までEVで貫くことは、上のヨーロッパでのEV設置例とは比較にならない、極めて大きな改変であると思います。

なお、名古屋城天守は「再建」(いわば新築建築)じゃないか、という見方については、私は、史実に基づいて復元される天守は極めて本物に近いものだと考えています。河村市長も「復元は新築ではない」と指摘しています(上記毎日新聞)。ところが、EV設置派の人々の多くは、文化財の復元の問題を、新築建築のバリアフリーの問題としてとらえてしまっています。東洋大の高橋儀平氏はその例です(上記毎日新聞)。朝日新聞の名古屋地域面で、2018年8月23日から27日にかけて5回にわたり掲載された「名古屋城問題考」というインタビュー・シリーズでEV設置に賛成している人たちも同じ傾向です。

そうなのでしょうか。石と比べれば、木材はやはり脆弱です。法隆寺にしても、次の1000年、今までの木が持ちこたえるかわかりません。いたんだ部分の木材は入れ替えていくかもしれません(日本の木造の歴史的建造物ではすでにやっていることではありませんか?)。あるいは、それまでの木材に樹脂などを注入して補強することになるかも知れません。そうしていくうちに、将来の法隆寺には、創建当時のままの木材は残っていなくなるかもしれません。そのとき法隆寺はもう「本物」ではなくなるのでしょうか。そう考えたくはありません。では、なにが本物として残るのか。法隆寺の創建に込められた思想であり、それを体現した意匠であり、工法・技術であり、トータルな姿、さらに言えばイデアだと思います。素材を超えるものです。

名古屋城天守は不幸にも消失してしまいました。ヨーロッパなら素材(石)が残るところ、何も残っていません。では復元するものは何か。名古屋城天守の本来の姿ではないでしょうか。17世紀の残存する石垣に、17世紀当時の天守の姿を復元すること、これが出発点だと思います。

今の金閣寺の金閣(舎利殿)は復元ですが、金閣を前にして、「本物じゃないじゃないか」という考えは私には浮かびません。それは、庭園と復元された金閣とで、金閣寺の「本来の」思想が出現しているからではないかと思います。名古屋城天守にもそうなってほしいと思います。バリアフリーはそこから出発すべきです。17世紀の「姿」をまず保存し、21世紀のバリアフリーの思想はそこへの「追加」の形をとってほしいです。エレベーターの設置はそれ自体が復元天守を大きく毀損してしまうものだと私は思います。エレベーターで17世紀の「姿」「イデア」を壊してしまってはいけません。

訪問者と復元天守を災害から守る技術、復元天守を脇から、裏から支える新技術はもちろん導入すべきと思います。バリアフリー対策も多方面から知恵を出してほしいと思います。また、可能な範囲で、階段を史実より広くする、増設するなどしても、EVよりは建物の改変の度合いははるかに低いのではないかと思います。一方、車いす利用の方も、車いすを乗り換えれば、天守への改変の度合いがエレベーターより低い形でバリアフリー対策を実現できる、ということであれば、車いすを乗り換える労をとってもらえればと思います。

 

 

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2月: 多民族のパリ

 

2月はこのサイトの固定ページには特に変化はありません。

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2月17日から3月初めにかけてフランスを訪れ、パリに都合7泊しました。パリにこれだけ滞在したのは6年ぶりです。しかも今回は、これまであまり宿をとらなかったセーヌ川の北側(右岸)の、北駅 Gare du Nord のそばに主に宿泊しました。これまでは早めの予約ができず、パリでは思うように宿を取れませんでした。今回は、シャルル・ドゥ・ゴール空港への帰路も含めた交通の利便性を考え、この地区をねらって早めに予約をしました。

実は、この北駅と南東方向に 300~400m 行ったところにある東駅 Gare de l’Est (どちらも10区)の一帯から、北駅の北側の18区に入ったあたりは、パリの中でも移民系の人たちが多く住んでいる地域です。(また、今回は訪れませんでしたが、東駅のあたりからさらに東方に 1 km ほどのところにあるベルヴィル Belleville の一帯(20区の北側、19区の南端)にはアジア系の移民系の人たちが多く暮らしています。ベルヴィルについては、この記事の末尾で言及します。)

今回、フランス人の知人の案内もあり、この北駅・東駅の付近と北駅の北側の地域を散策しました。写真で紹介します。

まずは北駅の東側付近から。写真はインド系のお店です。

北駅から南東方向に東駅の付近に進んだところにはエスニック系の料理店がいろいろありますが、そのうちの一つのアフリカ料理の店。

こちらは、北駅から北西方向に 300~400m 行ったところにあるメトロ 2号線の高架部分。写真の右側がバルベス Barbès の駅になる。バルベスは、パリを南北に走るメトロ 4号線との乗り換え駅でもある。高架橋の向こう側には移民系の人たちがよく利用するタチ Tati という百貨店が見える。

パリを南北に走るメトロ 4号線のバルベス駅とその北のシャトー・ルージュ Château Rouge 駅の間の、東側の一帯にはエスニック系の店がたくさん見られる。

エスニック系の肉屋。手前の陳列台の上をよく見ると、牛の頭部が商品として並べられているのがわかる。

アフリカ系の衣料店。

アフリカ系の食品店の内部。

アラビア系の食品店。

看板に “À vapeur Homme” とある。蒸し風呂 bain de vapeur の男性  homme 用ということのようだ。私は未体験。

私と知人はこの日、美味なアフリカ料理に舌鼓を打ちました。ただし、事はフランスの社会問題にからんでくるわけですが、移民系の人々はフランス社会の中で、相対的に失業率が高かったり、平均所得が低かったりする事実があります。そうした状況の中でも、ほとんどの人たちは一生懸命、誠実に、そして明るく生活しているわけですが、フランス社会をよく理解していない観光客などは、ごく一部の人たちの不法行為の標的にされるかもしれません。パリ、そしてフランスでは、フランス社会をある程度勉強してから、また場合によってはフランス社会に通じた人と一緒に行動することをお勧めします。

この記事の冒頭でふれた、アジア系の移民系の人たちが多く暮らしているベルヴィル Belleville の一帯も、筆者はかつて訪れたことがあります。最後にこの地域も見ておきましょう。

ベルヴィル通り Rue de Belleville 。中国系を中心とするアジア系の飲食店などが多く並んでいる。(Wikimedia より)

ベルヴィルはそのストリートアートでも有名なようだ。(2013年3月筆者撮影)

2019年2月28日

 

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