刊行物紹介: ボネ『心理学試論』、ビシャ『生と死の生理学研究』(十八世紀叢書『生と死』)

 

私も訳者として参加し、2020年9月に刊行された翻訳書を紹介します。

『生と死--生命という宇宙』紹介」沢崎壮宏, 小松美彦, 金子章予, 川島慶子各氏との共著 (日本18世紀学会『年報』第37号, 2022年6月25日) (PDF, 全文)

(2022年7月追記)

『生と死--生命という宇宙』の刊行を機に、共訳者の小松美彦さんと私で、『週刊読書人』2020年11月6日号での紙上対談を行いました。(2020年11月7日)

PDF版あるいは紙面を入手していただくには次をご参照ください。

<1> 読書人オンラインショップ — 読書人11/6号発売です!

このオンラインショップのページでは、【最新号のご案内】として、次のように対談の内容の紹介もされています。
「久しぶりに読書人らしい西洋思想の特集です。(・・・)
対談は(・・・)本書のイントロダクション的な内容です。収録されているシャルル・ボネ「心理学試論」、マリー・フランソワ・グザヴィエ・ビシャ「生と死の生理学研究」の概説、ボネ、ビシャの人物像、時代性、課題……。『生と死』を読む上で押さえておきたい議論が交わされています。
一方ではボネ、ビシャを論じたフーコーについてのディスカッションも行われます。18世紀の自然科学研究をフーコーがどう解釈したのか。本対談のハイライトは記事の後半部で出てきますので、この読み応え十分の紙面をぜひ最後までお楽しみください。 」

<2> 読書人WEB

こちらでは対談の冒頭部分を読んでいただけます。

 

本書は、十八世紀フランス語圏ジュネーヴの哲学者・博物学者シャルル・ボネ(1720-1793)と十八世紀末葉のフランスの生理学者グザヴィエ・ビシャ(1771-1802)のそれぞれの代表的著作の翻訳をカップリングしたものです。「生と死」というテーマにかかわる百科全書の項目の翻訳も付属します。私が関わったほぼ10年ぶりの市販刊行物になります。
次の書名や叢書の部分をクリックすると出版社のサイトに移ります。ボネ、ビシャの略歴はこの出版社のサイトで読んでいただけます。

 『生と死--生命という宇宙』十八世紀叢書 7、国書刊行会、2020年9月刊)

全体の目次は次のようです。

心理学試論(シャルル・ボネ)(飯野和夫、沢﨑壮宏訳)  pp.7-176
生と死の生理学研究(マリー・フランソワ・グザヴィエ・ビシャ)(小松美彦、金子章予訳)  pp.177-333
『百科全書』項目――「死」、「生」、「生・寿命」(川島慶子訳)  pp.335-357
*          *          *
(解説)ボネ『心理学試論』(沢﨑壮宏、飯野和夫)  pp.359-400
(解説)グザヴィエ・ビシャと『生と死の生理学研究』の歴史的在処(小松美彦)  pp.401-507
(解説)『百科全書』項目――ふたつの「生」とひとつの「死」について(川島慶子)  pp.509-518

翻訳はボネもビシャもしっかりしていると思います。解説はなんといっても小松美彦氏のビシャです。著書なみの解説です。ボネの解説は比較的コンパクトにまとめられています。

私がかかわったボネは、これまで日本はもちろん欧米でも比較的マイナーな存在でしたが、視力の減退した人に視覚的な幻覚が現れる病気が、近年「シャルル・ボネ症候群」と呼ばれるようになってきたのに伴って、その名を目にすることが増えてきています。本書で私がかかわったボネの『心理学試論』(1754)は、心理の動きに対して生理学的接近を試み、それによって、今日の実験心理学(実験・観察に立脚する心理学)や行動科学(人間行動の法則を研究する科学)への最初の道を切り開きました。またボネは、いち早く「シャルル・ボネ症候群」の症状を報告し、その症状が身体に依存しているとしました。これは現代と同じ考え方で、そうした考え方の大本にボネは位置していることになります。ボネについての「解説」では、このように命名されることになった経緯についてふれるとともに、この症候群に関わる『魂の諸能力に関する分析試論』(1760)の一節も訳出しています。

この紹介の最後に、ボネ『心理学試論』の目次を掲げておきます。細かな章立てになっています。
* (   )内は、本書を内容から 9 の部分に分けた場合の各部の内容を示します(ボネが分けているわけではありません)。

シャルル・ボネ『心理学試論、あるいは、魂の作用、習慣、教育に関する考察』
ロンドン、一七五五年

献辞
はしがき
序論

(魂の状態)
第一章 受胎後の魂の状態について
第二章 誕生時の魂の状態について
第三章 誕生後の魂の状態について
第四章 同じ主題の続き。観念の連関と観念の想起
第五章 覚え
第六章 同じ主題の続き
第七章 注意
第八章 言語の使用を欠いた魂の状態について
第九章 動物の魂についての反省
第十章 魂は観念を分節音に結びつけること。こうした分節音を発することをどのように学ぶか

(観念の生成)
第十一章 魂は観念を文字に結びつけることやこうした文字を生み出すことをどのように学ぶか
第十二章 発話能力を授けられた魂の状態について。魂はどのようにして観念を普遍化するに至るか。人間、動物、有機体、物体、存在といった普遍観念の形成について
第十三章 同じ主題の続き。思考、意志、自由、真、偽、正義、善、規則、法などの諸観念の形成について
第十四章 同じ主題の続き。単位、数、延長、運動、時間の諸観念の形成について
第十五章 同じ主題の続き。綱、属、種の観念の形成について
第十六章 同じ主題の続き。原因と結果の観念の形成について
第十七章 言葉のその他の利点。言葉は観念を固定する。観念の連関を強化し増大させる。魂が自由に観念を配置できるようにする。アメリカのいくつかの民族の道徳的状態について
第十八章 一般的に見た、言語の完成度、特質、起源について
第十九章 動物における言語の使用についての反省
第二十章 言葉が脳に刻印する運動がほとんど無限に多様であること。この器官の諸作用の本性と多様性からこの器官の組織について、もっとも重要な諸観念が得られること

(観念の仕組み)
第二十一章 諸知覚と諸感覚の驚くべき多様さに関する、また、その多様性を操作するための仕組みに関する一般的考察
第二十二章 触覚の諸観念の仕組みについて
第二十三章 味覚の諸観念の仕組みについて
第二十四章 嗅覚の諸観念の仕組みについて
第二十五章 聴覚の諸観念の仕組みについて
第二十六章 視覚の諸観念の仕組みについて

(観念の再生)
第二十七章 諸観念の再生の仕組みに関する諸推測
第二十八章 同じ主題の続き
第二十九章 同じ主題の続き
第三十章 前述の推測に関する考察
第三十一章 諸観念の再生に関する別の推測
第三十二章 諸観念の仕組みに関する別の仮説
第三十三章 物体〔身体〕など存在しない、という哲学的見解について
第三十四章 私たちの本性についての哲学者たちの見解が各人各様であることに関する考察

(魂の非物質性)
第三十五章 魂の単一なること、あるいは魂の非物質性
第三十六章 同じ主題の続き。いくつかの問いへの答え
第三十七章 知覚したり感覚したりするとき魂は全く受動的なのだろうか、という問いについて
第三十八章 魂は一度に、つまり不可分の同一の瞬間に複数の観念を存在させるのか、という問いの検討
第三十九章 全く機械的に見えるが魂の意欲に従っている諸運動について
第四十章 同じ主題の続き。いくつかの原理のいろいろな場合への適用
第四十一章 感覚能力と起動能力について。これら二つの能力が互いに大変異なっていること

(自由)
第四十二章 自由一般について
第四十三章 自由一般の諸決定について。意志と知性について。愛着について
第四十四章 無差別の自由について
第四十五章 魂には自分を決定するための動機が必要なことは経験から明らかである、ということ
第四十六章 我はよりよきものを見て是認す、されど、悪しきものに従う、という言葉の説明
第四十七章 予見の基礎について
第四十八章 自由の決定は確実ないし必然的か、という問いについて
第四十九章 必然性は自由を破壊しない、ということ
第五十章 神において考察される自由について
第五十一章 動物たちにも自由はあるか、という問い

(道徳)
第五十二章 魂の完全さ一般について
第五十三章 秩序について
第五十四章 幸福について
第五十五章 神の実在に関する考察
第五十六章 一般体系について
第五十七章 必然性の体系は行動の道徳性を破壊しないこと
第五十八章 必然性の体系において考察された神の法と人間の法について
第五十九章 必然性の体系における祈りについて
第六十章 必然性の体系における来世での賞罰について

(習慣)
第六十一章 習慣一般について
第六十二章 習慣が形成される仕方について
第六十三章 習慣が弱まったり、強まったりするのはどのようにしてか
第六十四章 好み、傾向、傾き、習俗、そして性格の起源としての習慣
第六十五章 快苦について
第六十六章 対象が子供の感覚器官に刻印することから生じる結果について

(教育)
第六十七章 もっとも一般的な諸結果において考察される教育について
第六十八章 教育の完全さを作り上げるものについて
第六十九章 生来のものが教育の諸成果を修正すること
第七十章 精神の生来の適性について
第七十一章 教育が精神の生来の適性を見抜き、活用する仕方における教育の知恵は、主として、何に存するのか
第七十二章 心の生来の適性について
第七十三章 教育はどのようにして心の生来の適性を磨いて仕上げるのか
第七十四章 徳を欠いた諸気質に対する教育体制について
第七十五章 さまざまな才能の間にある連関、また、さまざまな美徳の間にある連関について。教育はこれらの連関に精通し、それらを強め、拡張すべきこと
第七十六章 才能の万能性について
第七十七章 才能の万能性に対する教育の指導について
第七十八章 純粋に好奇心をそそるさまざまな才能について、また、そのような才能を有益なものに変える教育の術について
第七十九章 教育の、精神の諸力を心地よく行使するための配慮について
第八十章 精神の進歩について、あるいは、精神による知識の獲得に見られる段階的変化について
第八十一章 指導方法に関する一般的考察
第八十二章 宗教の根本的諸原理の教え方について
第八十三章 性格について
第八十四章 教育の力について
第八十五章 同じ主題の続き

(2020年10月10日)
(2022年7月更新)